2台のバイクがゆっくりと山道を登っていく。師走の初日は小春日和。
向かった先は勢多・東村の草木ダム。青い湖面のはるか上を、
金色の葉っぱがチョウのように踊る。
 「きれいだねえ」
 「ほんとだ――」
 
山田穂子(すいこ)さん(52)=桐生市菱町=と
角田(かくた)真喜子さん(50)=館林市大谷町=はヘルメットを脱ぎ、
堤に腰掛けた。待ち合わせた大間々町から二十数キロ、
1時間足らずの短い旅だ。
バイク好きの長男をともに交通事故で亡くした2人は、3年前に知り合た。
交通事故裁判の判例で山田さんの長男の事故を知った角田さん夫妻が、
バイク店を営む山田さんを訪ねた。それをきっかけに、
メールをやりとりしいる。2人一緒のツーリングは、この日が2度目。
   
 山田さんが長男の大助君(当時18)を亡くしたのは10年前。
大助君は95年4月、足利市内にバイクの部品を取りに行く途中、
脇道をバックしてきた乗用車に前方を阻まれ、衝突した。
「大助、起きて帰ろう」。父親の眞一さん(55)の呼びかけに返事はない。
店を継ぐため、県立産業技術専門校に入学した矢先だった。
散歩気分でツーリングする親子の時間は奪われた。

 ダムへの道、国道122号は大助君と何度も通った。
走り終えて、山田さんはこんな歌を詠んだ。
 
           風に舞う
            木の葉のいざない
            手をかざし
            空に戯れ・・・
                   言霊を聞く

 
 整備士を目指して専門学校に通っていた角田さんの息子、廉(れん)君
(当時19)は01年10月、アルバイト先からバイクで帰宅途中、
急に右折した乗用車と衝突した。意識は戻らぬまま、15日後に力尽きた。
その日の思いをホームページにつづる。
この次、生を受ける時は 
「男同士の友達ってのもいいな。一緒にツーリングしよう!」
 
昨夏、中型二輪の免許を取った。先輩ライダーの山田さんからメールで
アドバイスを受けながら、廉君も通った教習所を走った。
今、アルバムや思い出話を頼りに、足跡をたどる。
わたらせ渓谷鉄道の水沼駅、
父・和正さん(50)と最初で最後のツーリングだった日光……。
 
夢を絶たれた廉君が天国で心穏やかに暮らせますように。
角田さんは昨秋、
廉君の享年に合わせ19番・龍石寺から、秩父札所巡りを始めた。
偶然にも同じ時期、山田さんも秩父の巡礼をしていた。
「来年は一緒に秩父に行こうね」。帰る道すがら、2人は約束した。

死に急ぐ若者がいる。七輪に練炭を入れ、集団での自殺。
角田さんはこのニュースに触れるたびに「その命、譲ってくれよ」と思う。
「いらないなら廉にあげるから」
 
 
生きた証を伝えたい。
生きていれば出会ったかも知れぬ多くの人に届けたい。角田さんは2年半前、
宇都宮市で開催された「生命(いのち)のメッセージ展」に
廉君の靴と手袋を初出品した。
交通事故や犯罪などで志半ばで生命を絶たれた人たちの遺品を通して、
命の尊さを知ってもらう企画だ。
千葉、高知、和歌山……。19歳の姿の廉君は14カ所を訪ね、
のべ2万5千人に出会った。
1年あまり遅れて大助君も、その旅に加わった。
   

 昨年12月上旬。東京・早稲田大学で04年最後の生命のメッセージ展が開かれた。
ピアノの音色が静かに響きわたる会場に、124人分の等身大の白いオブジェが
肩を寄せ合うように並んだ。山田さんと角田さんも会場に向かい、
半年ぶりに息子たちと「再会」した。2人が愛用していた靴の左足には、
バイクのペダルにあてるゴム製パッドついている。
こすれて白くなったパッドがバイク好きだった2人の輝いた時間をしのばせる。
 山田さんは靴のつま先に触れ、そっとかかとをそろえた。
オブジェには家族でツーリングしたときの写真が張ってある。
「10年後にバイクで来て写真を写そう」と話した
12歳の大助君が見つめる。
 
 廉君の靴の横には、真新しいバイク用の手袋。
アルバイトに行くときは軍手やスキー用の手袋で代用していた。
「この頑丈な手袋は、ほとんど出番がなかったんだろうなあ」。
角田さんは指を入れ、息子のぬくもりを探した。
 叔父を白血病で亡くした女子大生がオブジェを見つめ、
「人が死に、その人と家族が発するメッセージは一言も逃したくない」。
息子と来た山形市の主婦は「世の中の理不尽な出来事すべてに思いを巡らる」と
しんみりした。
 
 今年10月、県内初の「生命のメッセージ展」が高崎市で開かれる。
「大切な人を失って悲しむ家族の思いを、たくさんの人に届けたい」
 
 春、タイヤに路面の感触が柔らかく伝わってきたら、
再びツーリングの季節だ。目指す秩父は約80キロ。
年、母の轍(わだち)は2人の軌跡を追い越すかもしれない。
                                          (熊井洋美)


きずな「手渡し」で伝えたい       

群馬から発信
[母2人、亡き息子へ]


  桐生・館林→秩父80キロ

生きた証し 多くの人に
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朝日新聞群馬版 2005年1月1日掲載

子育て地蔵の不思議
2004年9月17日

2004年10月22日
童子堂 二十二番札所

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 2004年11月19日

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